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sacrifice



一応の注意
・死にネタです。
・こんな未来はやだなーと思いついて、でも、こんなBL時空な未来になるわけないので書くしかないかと。
・原作ベースで、最終決戦っぽいあたりな感じです。
・いつも通り薄暗い書きっぱです。
・まあ、いつものことだろ、という方は↓へスクロール













































 
 
 
白ひげ海賊団で隊長となる者は、ひとつだけ誓わなければならないことがある。
 
 
忠誠?友愛?沈黙?否。そんなものはとっくの昔、一兵卒のときから誓っている。
そうではない。その誓約は、誓う者以外は存在すら知られない。隊長となる者にだけ教えられ、誓いを拒否した者はいない。いない、ことになる。そうして秘密は守られる。
 
 
誓いは簡単だ。ただひとつ。望まないこと。
何があっても決して、それ、を望まないこと。
 
 
 
 
 
 
 
 
再生限界のある不死鳥なんざお笑い草だ。悪魔の実もそこまで万能ではないらしい。
 
瀕死の息で嗤う。嗤う以外に何ができる。止らない血を掬ってここまでかと思う。マルコは己が世界の中で脇役であることをよく知っている。せいぜいがかませ犬か、「悪役」の引き立て役だ。こうやって無様にやられて地べたを這いずっているのが似合う役回りだ。仇も討てず、隅の方で息絶えていく。無力で無惨な敗北者。名もなき群衆。
「白ひげ」のようには、なれない。決して世界の中心にはならない。よくわかっている。それをはき違えたことはない。それでも。
 
 
 
世界は終わろうとしていた。
 
 
 
混沌がすべてを呑み込もうとしていた。何もかもが崩壊しかかっていた。もはや既に手遅れだと誰もが叫んだ。
 
――― 世界を滅ぼす兵器が発動する。
 
黒ひげの呪いは本人が斃れても尚その歯車を止めない。古代の神を冠した四つの力は、ひとたび発現すれば意志なく無差別に揮われる。人の力など太刀打ちできない。ここに集う海軍も世界政府も海賊も革命組織も完膚なきまでに破壊尽くされるだろう。制御を失った暴力は戦争を招き、戦火は世界中に拡がり秩序は失われる。暗黒時代の悪夢は速やかに再来する。すぐそこまで迫っている。
 
兵器を止める術はあった。最後に残された希望の鍵。ある「力」を持つ人間だけが、停止を命じることができる。
世界を従える力。――― 覇王色の覇気。
望んでも持てず、ただ、選ばれて与えられる力。かつて、ゴール・D・ロジャーを王と成し、そして破滅させた力。
 
 
 
そしてこの場には、その希有な力をもつ人間が運命的に集っていた。三人。
 
麦わらのルフィ。
赤髪のシャンクス。
女帝ボア・ハンコック。
 
あと一人だけ、どうしても足らなかった。
 
 
 
まるで誂えられた舞台の上。
 
途方もなく希有な力を持つ三人の人間が、実力と幸運と機会とを携えて集う。対するのは暴走寸前の古代兵器。救われるのは「世界」。叶わなければその破滅。
鍵はひとつだけ足りない。タイムリミットは短い。絶望する群衆。絶望せず、あがく主演たち。
運命的なシナリオ。最後のクライマックス。筋書きの最後だけを誰もが知らない。
喜劇か悲劇かは終わってみるまで誰もわからない。
 
 
 
 
世界は終わろうとしている。
 
 
 
 
麦わらのルフィ。エースの弟。満身創痍の身体に覇気を漲らせて。真っ黒で真ん丸な眼差しが宙を睨みつける。
夜の海のような目だ。血は繋がっていないと聞いた。それでも間違いなくあの青年と同じ魂をもった生き物。
 
――― あのいとおしい魂と。
 
 
(エース)
 
 
その胸を濡らした血の色を今も覚えている。取り返しのつかないものをとりこぼした衝撃を今も覚えている。悔やんでも悔やみきれないあの瞬間。あまりにも簡単に途切れた奇跡の名残。
―――代わってやれたならと何度も思った。何度も。何度も。何度も何度も何度も何度も何度も。
それが、可能ならば。
 
 
 
世界が終る。
 
 
 
世界が崩壊する。全てが何もないところに還っていく。止められるのはただひとつの鍵だけ。それさえあれば全てが変わる。それがなければ、すべてが終わる。ワンオアナッシング。なんてわかりやすいシナリオ。悲劇的で陳腐で容赦のない。あらゆる英雄が集まっても止められない崩壊。全ての人間の善意と力と意志とを集めても、最後には悪運こそが必要だという呪い。
 
(――― あァ)
 
なんて、陳腐で運命的な。
 
「エースの弟、」
 
瀕死の声を絞り出す。一斉に振り向く様が滑稽だ。鳥のおっさん、と呼ばれて顔を顰める。無礼なところもそっくりだった。・・・否、名前など知られずとも良い。世界が絶望に沈みかけたときに、忘れられていた端役が間抜けにも舞台に割り込む。道化。狂言回し。世界を廻すだけの役割。あらかじめ割り当てられた、この日のときのためだけの人形。それが与えられた感情だったとしても。
 
 
「・・・不死鳥の、能力を知っているかい?」
 
 
赤髪のシャンクスがいちばん察しが良かった。女帝も麦わらも虚を突かれている。あるいは、知っていたのか。あり得ないことではない。秘密はどこらか漏れるものだ。だからこそ誓いがいる。
 
「・・・・・・白ひげ海賊団の隊長は、隊長になるとき必ずひとつ誓いをたてる」
 
渾身の力で立ち上がる。襤褸雑巾のようによろめくのを自ら嗤う。幸いなことに支えてくれる人間もいなければ、止める人間もいない。もう、どこにも。
 
「エースの弟、・・・テメェの兄も誓ったよい。決して望まねェと」
 
なにをだ、と麦わらが問う。マルコは笑う。マルコは知っている。その素質を持つ人間を、二人。覇王色の覇気。世界に十人といないその資質。どれだけ欲しても持てず。ただ持って生まれるしかないモノ。それを持っていた人間を、二人。
 
「おれの・・・『不死鳥』の力を知っても、決して望まねェと」
 
なんのことだ、問う声に苛立ちの色。予想に違わず、せっかちでバカなガキだ。勘の良い者は気付きつつある。悪運の在り処。造物主の気紛れ。
もっとも無意味な者に、最も重要な鍵を預ける。まるで世界のバランスをとるかのように。
 
「覇王色の覇気を持つ人間なら、二人ばかり知ってるよい。・・・・・・あいにく、どちらも死んじまったがな」
 
白ひげ海賊団の隊長は、必ずひとつ誓いをたてなければならない。その力を知っても、決して望まないと。
 
「マルコ」
 
赤髪が怖い声を出す。その先を言うなというように。こっちも困ったクソガキだ。こののっぴきのならない状況にあって。世界の重さを理解しているくせに。
 
「赤髪の、遅ェよい」
 
せめて、この怪我を負う前なら、己は思いとどまっただろうか。誓いを―――それはマルコもまた誓ったことだ。己が命と誇りを賭けて。
決して。決して、望まないと。
 
それを今まで守ってきた。守ってきた。歯を食い縛って。激痛に耐えて。悪夢を捩じ伏せて。屈辱を甘んじて。守ってきた。感情を押し殺して。苦鳴を噛み潰して。記憶を擦り減らして。守ってきた。それだけが最後の盾だった。
 
だが、それも、今なら。今なら、再生不可能な傷を抱えた今なら。今なら、望んでもいいのかもしれない。もう、何もこの身には残っていない。
そのために、今、この身には何も残っていない。
 
「エースの弟、・・・・・・テメェの兄は望まなかった。おれのオヤジも望まなかった。絶対に。・・・赦しちゃあくれねェよい」
 
ゆるゆると炎が己をとりまく。傷を癒さない蒼い焔。再生限界。不死鳥の死という矛盾。――― 今、この瞬間だけ使える、魔法。
 
 
 
「不死鳥の実を食べた能力者は、ただひとりだけ、死んだ人間を甦らせることができる」
 
 
誓った。決して望まないと。
サッチも。
白ひげも。
エースも。
 
マルコがそれを行うことを、絶対に、一生、赦さないと。
 
 
 
 
「・・・己が命と引換に」
 
 
 
 
 
白ひげ海賊団の隊長の誓いは、望まないこと。
 
例え不死鳥の能力を知ったとしても、決して「それ」を望まないこと。
それ、が彼ら自身のものでも、――――それ以外のものでも。
 
決して望まないこと。決して、その能力を望まないこと。
「それ」が例え白ひげのものだったしても。
 
 
「それ」―――― 死からの再生。
 
 
運命を覆す力。
すべての反則。
 
 
 
――――エース。
 
 
 
助けたかった。生かしたかった。世界が望むのは、きっと彼の方だった。
生きていてほしかった。ただ、生きて生きて生きて欲しかった。全てに反しても。
誰よりも彼を生かしたかった。それが歪んだ望みだとしても。その力を己は持っていた。その手段はこの手の中にあった。己がただ、そう望めば良いだけだった。
 
だが、彼は誓った。決して望まないと。不死鳥の力を。
 
彼にも、彼が愛した人間にも。
父にも、母にも、友にも、オヤジにも。例えこの弟を失ったとしても、彼は決して望まなかった。決して。―――マルコの生命を引換にするこの能力を。
 
 
世界はその力を与えた。物語の脇役に。とるに足らない配役に。かませ犬に。引き立て役に。あたかもそのために存在したかのように。最後の瞬間にその引鉄を引くことを定められたように。
 
炎が踊る。蒼く青く碧くあおくあおくあおく。境界を染める。
黄泉と今生と。決して超えられないはずの河を繋ぐ。確信がある。能力者は誰に教えられずとも、その力の使い方を知っている。発動は一度きり。無条件ではない。甦らせることができるのは、かつて、不死鳥の血を、口にしたことがある者だけ。
 
笑う。場違いに可笑しくなる。昔、幼い頃、この力は白ひげに使うと決めていた。こっそり酒に混ぜて飲ませたら、気づかれて烈火のごとく怒られた。敵にも向けたことのない最大級の怒りだった。心底ビビって、死ぬほど安堵した。オヤジの命を代われることが、長い間、生きるよすがだった。あいにくこの能力では、死んだ時にしか巻き戻せない。オヤジを戻しても、病ごと戻すことになる。
そうでなければ、きっと、迷っただろう。迷うことを恐れて使うことはなかっただろう。
 
懐かしい記憶は、まるで死に際の走馬灯だった。ようやく事態を理解した麦わらが何かを叫んでいる。エース。テメェの弟に、テメェがどうやって不死鳥の血なぞを舐めたか教えてやろうか。よっぽど間抜けでどうしようもない記憶に毒づいて笑う。その噛みつき癖を恨みやがれ。
 
笑う。笑う以外に何ができる。
エース。おまえは怒るだろう。怒り、身悶え、恨み、詰って。いつかお前の帰還を喜ぶ人の間でその痛みを忘れるだろう。それでいい。
おまえが世界を恨んで死んでいたなら、いっそこのまま壊れてしまってかまわなかった。
おまえが笑って死んじまったから、己はこの力を行使する。
エースの弟。もうすぐ駄目で馬鹿な兄貴に会わせてやる。兄弟は再会し、世界は救われ、万々歳だ。それがハッピーエンドってモンだろう。
 
面影を浮かべる。声を、思い出す。強いて封じていた記憶を解き放つ。強く思う。強く強く強く。黄泉路から引きずり出すために。拡散した欠片をかき集めるために。
かつて能力者の魂はどこにあるのかとお前は問うた。全身が炎と雷と幻となって。それでも魂はどこにあるのかと。己はどこにあるのかと。死んでも魂は残るのか。死んだ後にどこに行くのかと。
 
お前は今なら何と答えるだろう。お前は何処にいたのかと問えば、何と答えてくれるだろう。
あるいは、ずっと、ここに居たと応えてくれるだろうか。ここに。側に。いつだって。呼べるほど近くに。気付かなかったのは、己だけだと。
 
ずっと、ここに在ったと。
 
青い炎の内に影が凝る。己を超えてあふれる焔が懐かしい輪郭をかたちづくる。
懐かしい頬。雀斑の。何度も夢に見た。呆れるほどに何度も。
黒髪も、秀でた額も、生意気な鼻先も、への字の口元も。少年から青年に変わっていった首も肩も。眠りの中でだけ。何度も何度も何度も呆れるほど。
確かな質感を伴ってあらわれるすべてを、何度も。
 
 
――――エース。
 
 
己が生命がほどけていく。己という現象が消滅していく。
代わりに存在を濃くしてゆく青年に見惚れる。
『奇跡』が今目の前にあって、それは夢ではなかった。
望むだけだった。ただ、望むだけで手に入った。払った代償の軽さに震えた。
触れたいと思ったが己が手は既に翼だった。呼びたいと思ったが言葉も既に失われていた。閉じた目が開けばと思ったが、深い陰を落とすまぶたはまだ動かない。
せめてまだヒトの意識があるうちにと思って、それが果たされるはずがないことを悟った。引換とはそういうことだった。
悪魔との取引とは、そういうものだった。
 
(・・・・・・あァ、そうか。己だけが会えないのか)
 
エース。己だけは、お前のこの目が開くのを見ることができないのか。
もう一度その目が己を映すのを見ることはできないのか。
 
 
不意にキスしてやりたくなった。あいにく既に嘴になっていて、頬にすりつけるだけしかできなかった。もう子どもではない。柔らかくもない頬。それで良かったのかもしれない。目覚めのキスが野郎じゃあ、きっとサマになるまい。
 
笑ったら青い炎がかふりとこぼれた。それを感覚したのが最後だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
青い炎が中空にかき消えたのと、青年がぱちりと目を開いたのが同時だった。
立ち竦んだ身体がふらつき、とっさに踏みとどまる。
ぱちぱちとまるで寝起きのように何度か瞬いて、ふと腕を伸ばして何かを掴む仕草をする。
空を切った手を、わずかに、不思議そうに眺める。
 
その腹に弾丸のような青年の突進を受けるまで。
 
 
 



















 
 
 
 
 
 
 
 
 
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