燔祭の日。
美しい日。
かつて神様は。彼の最も愛する者を生贄に差し出させた。
今は、そのての重いのは流行りじゃなくて。
牛とか羊とか山羊とか人形とか。
あるいは、穢れによって聖別された人間とか。
関係のない身代わりの何かでもいいらしい。
例えばそう、
罪人として生まれてきた人間とか。
ね。
その美しい日に。
誰もが生贄を捧げて己が平穏を贖おうとする。
否、己が家族の平穏を贖おうとする。
非難し辛いだろう?
ただのおっさんならともかくも、三歳の娘の明日がとか言われたら。
殺される方も抵抗し辛い。
醜くおぞましくある日突然誰にも平等に訪れる運命という名のきまぐれから。
己の代わりに災厄を引き受けてくれる 犠牲 を。
己の代わりに苦痛を引き受けてくれる 身代 を。
世界中の何千何百何十万もの人間を、神様の悪意から救うために。
世界という無秩序で無慈悲な荒れ野から、正しい道筋を選ぶために。
ただ一人に死を。
(ああ)
殺せという祈りの声。
供物を屠る美しい手順。
贄を慰撫するこの上なく正しい理由。
(おまえはそうあるために生まれてきたのだ。だからしかたのないことだ)
燔祭の火が燃える。
最初から。
生まれたときから。
何もかもが決まっていた。
この火にやかれて死ぬことが。
世界に贖われることが。
覆ることのない。
己が運命だと。
最初から。
(だけど)
だけどこれが神の日なら。
(供物が望んではいけない法はない)
誰もきっと信じてなどいないけれど、誰もが間違いなく信じている。
この世で最も美しいもの価値があるもの大切なもの大事なもの、
ただひとつ。
どうしてもほしくて手に入らなくて神様に何度も祈ってようやく与えられた、
まるで奇跡のように手に入れたいとおしいものを。
この火に。
捧げれば。
望みは叶うと。
おれはきっとたくさんのものをもらっていたから。
それとひきかえにおまえをたすけることができる。
絆。
傷の名。
―――――― ルフィ
光の名。
すべて。
積み上げたすべての善いもの美しいものいとおしいものより。
父親との信頼より、仲間との満ち足りた日々より。ただ一人から捧げられる心より。
それが天秤の片方にあふれるほど載せられたとしても。
何もかもを薪としてそれにくべて。
燔祭の火。
美しい火。
おれがおまえの兄貴だと、おまえが決めた。
兄は弟を守るものだと、おまえが教えてくれた。
泣きながら築き上げたすべての善きもの美しいものを。
おまえに捧げよう。
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