「なんか最近やたらとガキ扱いされる気がする」
晴れたとある日いつもの鯨の背の上で可愛い弟にそんなことを訴えられた。
サッチは若木のようにすんなりと立つエースを見て、答を知っている問いを放つ。こういうのを様式美というわけだ。
「誰に」
「マルコ。前はそんなことなかったのに」
「気のせいじゃねーの」
一蹴してやるのもお約束。そうやって若人は自分を客観視する術を覚えるわけだ。さすがオレ。頼りになる先輩。
だがしかし、予想されたことではあるがエース君はそんなことでは納得してはくれない。
「ガキ扱いされんのは慣れてっから。しなかった奴はよく覚えてんだ。マルコはわりと初めっから」
「え?そーなの?」
いつも面倒そうな一番隊隊長の挙動を思い出す努力をしてみようとして止める。いや、わかんねーって。立場で態度変えたりするとか、なんと御苦労なこと。
「ごめんなーおれ素朴なのがイイとこだからさぁ、わかんね」
「…あんたは最初っからずーーーっとガキ扱いしやがるよな」
唇を尖らせて見せる。こーいうガキッぽいしぐさが似合う、って言えるのはガキじゃねーからなんだよなーなんて一回転して納得する。
サッチは、実力だの実績だの精神性だの全部関係なく自分より十以上年下はガキだと決めている。そうでもしなきゃオレ平凡だから嫉妬しちまう。そこんとこを汲んでくれねーかなーなと思うこともあるが、汲んでくれねぇだろうからガキ扱いする。別に汲んでくれないのはガキだけじゃないから、ガキ扱いが不当なことはわかっている。
そんなこと死んでも言えないから考えなく逆に方向性を倒してみる。
「うん。だっておまえカワイーもん。ガキじゃなかったら食っちまいたいくらい」
思いっきりシナを作ってみせながら、不意に引き当ててしまった結論に内心で冷や汗が流れた。
(――――― やべえ…語るに落ちちまったんじゃねぇのこれ……)
エースを窺えば気付いた様子はない。ごく失礼にあんた気持ち悪いとか呟いている。
いやいやいや待て待て待て。これが正解だと決まったわけじゃない。いくらなんでもそんなわけはねぇ。わけじゃねぇけどそれが正解だったとしたら、あんまりにも楽し過ぎる。
「珍しく相談してんだから、ちゃんとまじめに考えろよ」
「だからさぁ、おまえがガキじゃないと不都合があることができたんだろうよ」
「何だよそれ。何の都合が悪いって言うんだよ」
「例えだよ。おれにわかるかよ。本人に聞いてみな」
「聞くけどさ」
あ、聞いちゃうんだそこ。聞くのかー…。きっと真正面から聞くんだろうなー。
それだけで滅多になくマルコが戦術を誤ったのがわかるというものだ。友人の陥るであろう苦境を意地悪く想像する。子ども扱いしてまでごまかしたいことと、少年とは言えない青年の信頼と、どちらを優先するのかまったくもって見物だと。
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