大きな声で楽しそうに話すひと。くしゃくしゃの顔で笑うひと。惜しみなく愛していると言って。あたたかく、力強く、こどもみたいに無邪気に。いつだって両手をひろげてくれるひと。
海賊と自由の名のもとで、たくさんのひとを殺めてきたひと。
窓の外で走り回っているひとたちがいる。いつも街を守ってくれる。泥棒から悪党から海賊から。かれらは礼儀正しく、理想を胸に抱いて。みなをひとしく守るために、悪魔の子を探せと触れて回る。万人のために百人の犠牲を。
海軍と正義の名のもとで、たくさんの妊婦の腹を裂く。
わたしは腹の中に鬼を飼って。殺されたあの人が愛した血肉を削ってこの子に与える。
隣人を謀り、かれらを欺き、無意味な犠牲に素知らぬふりをする。
無償の母性の名のもとに、避けられる悲劇を自ら望む。
この子はきっとたくさんの人を殺めるのだろう。たくさんの人を死なすのだろう。それでも生もうとする己は、それよりもっと多くの人をあらかじめ殺めているのだろう。
あのひとはかれらを殺めてこの子を生かし。
わたしは隣人を殺めてこの子を生かし。
かれらはあのひとを殺めて隣人を生かし。
この子はわたしを殺めて生まれ。
この子はあのひとを殺めて生まれ。
この子はいつかかれらを殺め。
ひとを殺めたその手で、誰かを生かすのだろう。
「暴力のかく美しき世に住みてひねもすうたうわが子守唄」(齋藤史)
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