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炎の形(エースのこと)

 

 
 
鳥になるってどんな感じ?と聞かれたから、逆に炎になるのはどんな気分だと聞き返した。
「うーん………少し熱い」
生身の部分が。そう呟いて、なんか違うなと首をかしげる。言葉にはしづらい感覚を言葉に置き換えようとする。
「熱くはないけど、全体の温度が上がる感じ。でも炎になってる部分は熱さとか感じない」
「どこまでが自分の身体かわかるのかい?」
「うん。なんとなく。炎を、こう、延ばしても、全体のここまでは自分の指先のような気がする、って感じがある。でも実際はけっこうずっと先の方だったりするから信用ならねぇけど」
ハハッとばつが悪そうに笑う。
「この先に何か触れたらわかるのかい?」
「じぶんの指先の範囲なら、なんとなく」
炎の点った指先の、ぎりぎり焼かれるあたり、をかすめる。
「どのへん?」
「焦げるよ」
「焦げるかよい」
炎に触れた指先に、熱の刺すような痛みを感じた瞬間に、ふわりと青い焔が再生していく。痛覚ごと呑みこむ。
「あんたまで発火したらわかんねぇよ」
「火に触ってる感じはしねぇのかい?」
「わかんない」
ふいと身体を離して、腿のナイフを抜く。逆手に握ったそれを持ち替えて握り手を差し出す。受け取ると、その鋭い切先に無造作に指を近づける。
「これくらい」
これくらいで、触ってる気がする。
それは確かに普段の彼の指よりは少し長い。
「でも、やっぱり生身とは違うから」
そのまま指先を刃に押し付け、抵抗のないまま掌をナイフにくぐらせる。不定形の炎が刀身を包んですり抜ける。
「触れてる感じがするだけ」
今、間違いなくひとつの人間の掌を斬り裂いたはずの、その力のあるはずの、刃が、少し哀れで早々に返却する。傷つけることができないのなら、どこにその価値があるのだろう。
「頭を砲弾で吹っ飛ばされたら?」
「意識が一瞬途切れて、戻った時には何か通り過ぎた後」
「どこでそれを感じてるんだろうなぁ」
「そうだな。脳みそふっとんでるはずなのにな。もしかしてその度におれ本当は死んでんのかも。悪魔が生き返らせてんのかも。」
「そりゃ、おれも一緒だよい」
「そっか、そうだよな。ならいっか。」
一緒だとしても、人でないことが、「ならいい」ことなのかどうかは知らないが。
「ロギアでもさ、全身を一度に変えられる人間ってなかなかいないんだって」
それは彼も聞いたことがあった。能力としてできないのではない。人の意識がストッパーとなるのだと。
どこかしらひとのかたちを残しておかないと、もどれなくなるのかもしれない。
「身体を真っ二つにされてもたいして気にならないけど」
すっと腹のあたりを真横に薙ぐ、仕草をする。不吉に。
「一度正面から散弾銃で蜂の巣にされたことあって」
なら、ひとのかたちとは何なのか。
「生身なら原型とどめないくらいに撃ちこまれて、死なないってわかってんのに思わず頭をかばうんだ…不思議だよな」
「生身ならかばっても無駄だよい」
「そうだな、馬鹿なことをしたのはわかってるけど。そんときは、咄嗟で。気が付いたら周りが何もかも燃えてて」
無意識のうちに炎になるその身体は、いったい、何、に従っているのだろうか。
それが、己が意志に、己が意志の届く先に従っていないのだとしたら、その輪郭をあふれ出すのだとしたら。
「自分が知らない間に炎をだしたのも怖かったし、それが自分の支配下にないことも怖かった。足場を燃やしてしまったら、俺はどうしようもないのにな」
あふれ出した炎は何に収めればいいのか。誰も触れられず、誰も止められず、その魂をくべて燃え続ける劫火を。
「そんときから、なんだろ、…死なないようにしてる」
「……」
「もしかしたら、頭を吹き飛ばされたときに死んでるかもしれないのにな」
「話して、笑ってりゃ、それで十分だよい」
「うん。もし死んでたとしても、大事なもん覚えてられたらそれで十分」
 
 
 
 
 
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