「ゾオン系はさ、完全に鳥になっちまうわけだろ?どんな感じなの?」
「頭ん中はそのままだよい」
「手は?手って感じがする?羽って感じ?」
「感覚は切り替わるな…。手は存在しない。羽はただ羽だ」
「尻尾は?」
「尻尾じゃねぇよい。尾羽だ」
「尾羽ってなんか生えてる感じすんの?嘴は?目とか耳は?あっ、ってかチンコは?」
「殴るよい」
「…殴ってんじゃん」
「説明はしてやれるが、理解はできねぇよい」
「別にトリの感覚が知りたいんじゃねぇよ。あんたがどんな感じなのか知りたいだけ」
「……」
「自分の身体だけで空飛ぶのって気持ちいい?」
「……ああ」
「空の中にいたら地上のことなんて忘れたりしない」
「飛び続けられる鳥なんざいねぇよい」
「船よりもずっと早く飛べるし、行きたいところはどこだって、世界の果てだって行けるんじゃないの?」
「エース、鳥は思うより高くは飛べねぇよい」
「…そうなの?」
「そうだ。呼吸しながら空気にのって飛んでんだ。高度が上がれば上がるほど空気は希薄になる。身体は大きさの割に軽いから嵐になれば風に流される。雷雲に突っ込めば翻弄されるだけだ」
「でもあんたなら死ぬことはないだろ?」
「空気がなくなっても生きてられるか試したことはねぇよい」
「きっと死なないって!空島は?空島まで飛べる?」
「飛べねぇよい」
「なんで?行ったことないの?」
「オヤジのお伴で若ぇ頃行ったことはあるよい。ただし飛んで行ったわけじゃねぇ」
「えー飛んでみろよ。行けるかもしれねぇじゃん」
「鳥の飛行能力は知られてる限りで8000メートル程度だよい。空島は1万メートルはある。昇ったはいいが力尽きて真っ逆さまに海に落ちるのはごめんだよい」
「ふうん…。飛べるとこまで飛びたいとか思わねぇ?」
「………」
「頭ん中、本当にマルコのまんま?」
「………昔、一週間くらい」
「うん」
「飛び立ったまま陸地も何もなくて、呑まず食わずで飛び続けたことがあったよい」
「…眠るのは?」
「飛びながら寝るんだ。海はうんざりするほど広くて、本当に無人島ひとつ船の一隻すらなかった」
「……」
「羽ばたくのを止めたらさすが不死鳥でも死んじまう。最後の方は朦朧としてな、飯じゃなくてエサを探そうとしてた」
「鳥みたいに」
「不死鳥が何食うかしらねぇけどな。水鳥みてぇに魚は無理だしなぁ…。まあ、ありがたいことに虫は食わずに済んだよい。それから無理はやめたって話だ」
「その後どうなったの」
「…親切な船に行きあって水と食料を分けてもらってついでに近くの港まで載せていってもらったよい」
「嘘つけ。弱り切ってるところを海賊船に拾われて今ここに至るくせに」
「サッチ!!」
「え?!それ本当?!今のマルコここ来る前の話?!」
「うん。本当本当。人に話してるのは初めて聞いたけど」
「サッチ!てめぇこのおしゃべり野郎!!」
「別に聞かれて困る話じゃないじゃーん。古株はみんな知ってるし」
「え、何それ、何年前?!なんで?!どういう経緯で?!おれも知りたい!」
「うるせぇよい!話は終わりだよい!サッチ!てめぇはさっさと持ち場戻れ!エースも休憩は終わりだ!とっとと続き始めろ!今日中に終わらなかったら承知しねよい!!」
「マルコひでぇ!」
親密で居心地のよかった空間から叩きだされたエースの肩に、サッチがふらりと腕をまわす。
「あの鳥ヤローが締めに言いたかったことを教えてやろうか」
どこから聞いていたのかわからない、漂々とした笑みがエースを覗き込んで深くなる。
「止まり木がないと鳥は飛べないってことさ」
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