「ブルック」
「ハイ、何でしょう」
「ブルックは一度死んで生き返ったんだよな?」
「そうですよ」
「人って死んだらタマシイになるんだな」
「……」
「タマシイってどんな感じだ?」
「ルフィさん」
「見えね―けど、近くにいたりすんのか」
ゆっくりと虚空を指で示す。
誰の魂が、誰の近くに。
「すぐに…どっかに行っちまうのか?」
猫の目が見えぬものを見るように。
空っぽの己の眼窩を通り過ぎて黄泉を見ようとする。
「ルフィさん」
呼びかけて、己が声は、己が視界はどこからくるのだろうと思う。この思考も。
魂とはどこに宿っているのだろうか。
「私は死んで魂にはなりましたが、会いたい人とは会えませんでした」
ヨーキ船長とも、ラブーンとも、先に逝った仲間とも。
生きた者とも、死んだ者とも。
気付けばひとり霧の中をさ迷っていただけだ。
他の皆がどこに逝ったのかなんて知らない。
「あの世があるのか、無になるのか、生まれ変わるのか、私にはわかりません」
口がへの字になってしまった船長に、ヨホホと笑う。
「ルフィさん。私ね本当はわからないんですよ」
ずっと誰かに言ってみたかったこと。
「私は確かに死にました。
だからこうして動いてしゃべっている私が、本当に私なのかわからないんですよ。悪魔が本当にいたとして、私の記憶をもった悪魔が私のような顔をしてここにいるだけで、本当の私はもう死んでしまって魂など存在しないのかもしれない。だって私は死んだのですから。
私が『私』だと証明するのはこの記憶しかないのですが、この記憶を私が最初から持っていたかどうかはわからないのです。目が覚めた時、私は私の体を探してさ迷いましたが、それは昔から私であった私ではなく、その瞬間に生まれた誰かが私の記憶を持っていただけなのかもしれない
わからないでしょうか。そうですね。私も言っていてわからなくなってきましたヨホホ」
ロギアだったという彼の兄は、炎と化した身体のどこで思考し、どこに感情を秘めていたのだろうか。その魂は、その人格は、記憶は、どこにあったのだろうか。本当は炎となったその日に、この世ではないどこかに既に行ってしまっていたのではないのだろうか。
「つまりおおまかに要約するとですねルフィさん」
はてなマークを飛ばして首をかしげている船長に、もうそれ以上のうまい言葉が見つからなくて、傍らのバイオリンを手に取る。
「あなた居ると感じた時に、エースさんの魂はそこにいらっしゃるんですよ」
「……なんかよくわかんねぇけど、そうなのか」
「そうですよ。…一曲演りましょうか。何がいいでしょう。エースさんはどんな曲がお好みでしたか?」
「しらねぇ。いつものがいい。陽気なの」
彼の魂がここに居れば笑うだろう。
彼を視えずとも、彼の好みを知らずとも、彼の望むものを知っている。
それこそが、ここに彼の『魂』がある証拠だと。
彼の魂の、大きな大きなカケラがここに。
魂の在り処に悩む己が思惑を飛び越して。
全てを知る、無知の、
我が王、我が主。
恭しくこうべをたれる。
「承りまして」
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